3回目の司法試験

これが最後

平成29年 再現答案(刑事系)

 

刑法(E)

第1 乙の罪責

1 甲と共にAを体当たりし、押さえつけ、石で顔面を殴打した行為

(1)事実7記載の一連の行為は一つの行為として評価できるか。

 行為の一体性は行為態様、時間場所的間隔、当事者の主観等を考慮し決する。

 甲が初めに行った体当たりは、Aから殴られることを回避しようとして行った。次に甲はAを押さえつけたが、これはAが「何するんだこの野郎」と大声を出しており、威勢がよくAがさらに暴力をふるいかねないためである。この後、抑え込んだAの顔面を意思で殴打した。これは押さえつけた後も「お前をぶん殴ってやる」と、威勢がよく、暴れる様子を見せている甲に対して行った。以上3つの行為は、8時15分ごろ開始され人気ない路上で行われた同一時刻・場所の行為であり、顔面を殴打した行為は石で殴っている点で他の行為と行為態様が異なっているが、いずれの行為もAによる暴行から身を守るためという主観のもと、甲が行った。

 したがって事実7記載の行為は一体となって行われた一つの行為である。

(2)一連の行為により、Aが負傷しているため傷害罪(204条)の成否を検討する。

 「傷害」は人の身体の生理機能に障害を加えることをいう。

 Aは体当たりされ、押さえつけられ石で顔面を殴打されたことにより全治約1週間を要する鼻骨骨折の障害を負っており、身体の生理機能に障害を受けたといえ「傷害」されたといえる。

(3)もっとも、これらの暴行はAの暴行に対抗するために行われているから、正当防衛の成否(36条1項)を検討する。

 「急迫不正の侵害」とは、違法な侵害が現に存在するか間近に差し迫っていることをいう。上記のとおりAは甲に殴り掛かり、罵声を浴びせ、取押えた後も抜け出して殴り掛かろうとしていたのであり、気絶するまでの間Aの暴行という違法な侵害が差し迫っていたといえる。

 乙は身を守るために上記行為を行ったから「自己…の権利を防衛するため」に暴行した。

 「やむを得ずにした行為」とは防衛手段として相当であることをいう。

 体当たり、押さえつける程度の暴行は相手に傷害を加えるものではなく、武器を使用していないため、2対1であることを踏まえてもそれほど過剰ではない。また、抑え付けたうえで石で殴る行為は、Aが暴れて威勢がよいことから、Aに強い攻撃を与えなければ自らが傷害を受けると考えてもやむを得ない状況であったといえそうである。しかし、石が直径10㎝で重さが800gもあり相手に重大な傷害を与えるおそれがある物である。これで人体の枢要部である顔面を殴打したことを考えると、過剰な攻撃である。「やむを得ずにした行為」といえない。

 したがって、過剰防衛(36条2項)が成立する。

(4)以上から傷害罪が成立し、過剰防衛がとなる。

2 甲が財布を抜き取った行為について

窃盗罪の共同正犯となるか検討する。

 共同正犯の要件は①共謀、②①に基づく実行行為である。

 甲は乙に対し、財布を窃取する際、Aが死んだものと思い込み、Aが強盗に襲われて死んだように見せるため、Aの財布を探して捨ててしまおうと言った。すなわち、AB間では死亡したAの財布を遺棄することについての共謀があった(①)。それにもかかわらず実行行為は窃盗である。これは共謀に基づく実行行為と言えず②を欠く。

 共同正犯は成立しない。

3 罪数

 乙は傷害罪が成立し、過剰防衛となる。

第2 甲の罪責

1 Cに対し本件クレジットカードを手渡し腕時計XYを購入した行為

(1)加盟店に対する罪責

ア、甲は、A本人であると装って本件クレジットカードで腕時計XYを購入したことから詐欺罪(246条1項)の成立を検討する。

 1項詐欺罪の要件は、①人を欺く行為、②処分行為、③財産の移転、④①~③の因果関係である。

イ、欺く行為とは欺罔により人を錯誤に陥れることをいう。

  本件クレジットカードはB信販会社が所有し、B信販会社の規約には会員である名義人のみが利用でき、他人への譲渡、貸与等が禁じられていることや、加盟店は利用者が会員本人であることを善良な管理者の注意義務を持って確認することが定められている。この規約が定められていることから、カードの利用者は利用に際し加盟店の人間に対して自己が名義人でないことを告げる信義則上の義務があり、告げなければ、欺罔行為といえる。

 甲は名義人でないにもかかわらず、それを告げることなくCに本件クレジットカードを交付し、利用代金を支払う旨の記載がある売上票用紙の「ご署名」欄にAの名前を記入して交付した。Aではない旨告知せずAであるかのようにふるまっており、欺罔行為があったといえる。Cは、甲が名義人であると錯誤に陥った。

 したがって人を欺く行為があった(①)。

ウ 腕時計XYを売却するという処分行為を行った(②)。

エ 甲は腕時計XYを取得した(③)。

オ ①ないし③の間にはそれぞれ因果関係がある(④充足)。

カ 以上から詐欺罪が成立する

(2)Aに対する罪責 

ア、甲は、腕時計Xのみを買うという条件のもと本件クレジットカードを借りたが、腕時計Yも購入した。Aに対する関係で欺罔行為を行ったわけではなく、本件クレジットカードを借りた時点で腕時計Yを購入する認識はなかったから故意もないので詐欺罪は成立しない。

イ、次に、Aのクレジットカードを利用しているから、窃盗罪(235条)に当たらないか。

 窃盗罪の目的物は「他人の物」であり、有形物をいう。甲は、本件クレジットカードの信用情報に基づいて腕時計Yを入手した。この信用情報が有形物でない以上、「他人の物」といえない。したがって、窃盗罪は成立しない。

ウ、よって、Aに対し罪責は成立しない。

2 乙と共にAに体当たりし、押さえつけ、乙がAを暴行した行為

(1)傷害罪の共同正犯(60条)が成立するか。

  共同正犯の成立要件は、①共謀、②①に基づく実行行為である。甲は乙に対して「一緒にAを止めよう」と告げ、Aから殴られるのを防ぐため、乙は「わかった」と答え、体当たりした。Aの動きを制止させようとする①共謀に基づいて体当たりによりAの体勢を崩させ制止させているから、②①に基づく実行行為といえる。また、体勢を立て直したAが立ち上がろうとしたとき、「一緒にAをおさえよう。」と甲が乙に告げ、乙が「わかった」と答えたとする①共謀があった。これに基づきAを押さえつけているから、②共謀に基づく実行行為であるといえる。

もっとも乙が顔面を石で殴打したことを甲は認識していなかったとある。上記のAを止めるという共謀、及び、Aをおさえるという共謀いずれにおいても、素手で殴りかかろうとするAを止めるためである。800gものおもい石で殴ることは、上記の共謀の範囲を超えている。ゆえに、石で殴打した行為には共同正犯は成立しない。

(2)正当防衛(36条1項)が成立するか。

傷害罪は乙と同じく、Aの暴行という「急迫不正の侵害」から、生命・身体の利益という「自己の…利益を防衛するため」に行った。甲の体当たり及び体をおさえるという行為はAに傷害を負わせるほどのものではない。Aが声を荒げ、甲に殴り掛かろうとしていることからすると、2対1とはいえ防衛手段として相当なものであるといえる。

したがって、正当防衛が成立する。

(3)ゆえに、甲に傷害罪は成立しない。

3 Aの財布をポケットにしまった行為

(1)窃盗罪の成否を検討する。

   窃盗罪は①「他人の財物」を、②「窃取」、③不法領得の意思がある場合に成立する。

(2)ア、Aの財布はAの所有物であるから「他人の財物」である(①充足)。

   イ、「窃取」とは他人の占有にある物を、自己または第三者の占有下に移すことをいう。

    甲は、Aの財布をズボンポケットから抜き取り自己の上着のポケットに入れたから、他人の財物の占有を自己のもとに移転し「窃取」したといえる(②充足)。

   ウ、不法領得の意思とは、権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い利用処分する意思をいうと解する。

    甲は、財布を窃取した際、財布は捨ててもいいが、中の現金をもらい、借金の返済に使おうと考えていた。財布の中身の現金を借金に充てることは経済的用法に従った処分であり、権利者を排除して行おうとしていることから、不法領得の意思が認められる(③充足)。

(3)従って、窃盗罪が成立する。

4 罪数

 以上から、詐欺罪、窃盗罪が成立し、両者は併合罪(45条)となる。

 

刑訴(E)

第1 設問1

1 下線①

 Qらが、Kマンション甲方のベランダの柵を乗り越え、掃き出し窓のガラスを割って窓を開錠し甲方に入った下線①の行為は、甲方捜索差押令状(以下本件令状)の執行のために「必要な処分」(222条、111条1項)として適法か。

 法が「必要な処分」を許容する趣旨は、令状執行の実効性確保のために過ぎない。実際に必要であればどのような処分も許す趣旨ではない。「必要な処分」といえるかは、捜索差押え目的の達成に必要かつ相当な手段であるかによる。

 Pは、Qから、甲が玄関のドアチェーンをかけたまま郵便配達員に対応していたとの報告を受けていた。ゆえに、玄関から呼び鈴を鳴らしドアを開けさせるという対応をしていた場合、捜索差押えまでに時間がかり、覚せい剤をトイレに流す等して甲が証拠隠滅を図るおそれが高かった。ゆえに、柵を乗り越え、掃き出し窓のガラスを割って窓を開錠し甲方に入った行為は捜索の実行のために必要かつやむを得ない相当な行為であったといえる。

 したがって、下線①は「必要な処分」として適法である。

2 下線②

(1)ハンドバッグを掴んで取り上げた行為

 ハンドバッグを取り上げた行為は、捜索を実行するために行ったので、本件令状執行のため「必要な処分」か。

 「必要な処分」の意義は上記のとおりである。

 Pらによる捜索中、居間にいた乙がハンドバッグを右手に持ったまま玄関に向かって歩いたとある。この行為から、乙は証拠物を持ち出して捨てる危険があるといえる。そのためハンドバッグを取り上げる必要があったし、ハンドバッグをつかんで取り上げる程度の行為は権利侵害の程度の低い相当な行為であったといえる。

 ゆえに「必要な処分」といえ適法である。

(2)ハンドバッグを捜索した行為

 Pが、乙のハンドバッグを掴んで取り上げ、中身を捜索した行為は、甲方を「捜索すべき場所」とした本件令状に基づく捜索として適法といえるか。

捜索差押令状で「捜索すべき場所」を限定した219条1項の趣旨は、捜索の範囲を限定し、空間の管理者のプライバシー侵害を限定的なものとする点にある。ゆえに、空間内にあることが常態とされるものは空間の一部として当該場所の令状の効力が及ぶ。

本件で、乙は甲と甲方で同居する内縁の妻である。そのため、甲方あった乙のハンドバッグは甲方にあるのが常態であるといえる。

したがって、乙のハンドバッグの中身を捜索したことは、甲方に対する捜索として適法である。

3 下線③

 本件令状は「捜索すべき場所」を甲方とする。この令状により、第三者である丙のポケットの中身を捜索することができるか。

 「捜索すべき場所」は「身体」と分けて記載されている。これは、場所よりも人の身体への捜索はプライバシー侵害の度合いが高いためである。捜索すべき場所に対する令状でたま捜索すべき場所に存在していた物を第三者が隠匿したといえる事情がある場合には、「捜索すべき場所」に存在していた物への捜索として許容される。

 丙は、乙と異なり甲方にたまたま居合わせたに過ぎない第三者である。ゆえに、本件令状では原則として丙の身体の一部であるポケットを捜索することはできない。しかし、丙の右ポケットは膨らみ時折右ポケットに触れる等、丙は右ポケットを気にするそぶりを見せていた。つまり、丙は右ポケットに何らかのものを入れていたと考えられる。したがって、丙は甲方のものを隠匿していると考えられる。ゆえに、丙の右ポケットから手を引き抜き、さらにポケットの中を捜索した行為は、「捜索すべき場所」である甲方に存在していた物への捜索といえる。

 したがって、下線③は、「捜索すべき場所」に対する捜索として適法である。

第2 設問2

1 小問1

(1)本件で、各証拠を甲証言の証明力を争う証拠としてされた各取調べ請求は、「証人…の供述の証明力を争うため」(328条)に認められるか。

(2)まず、328条の対象となるのは「第321条乃至第324条の規定により証拠とすることができない書面」である。

 「証拠とすることができない書面」とはいわゆる伝聞証拠である。伝聞証拠は、その内容の真実性が問題となる場合に、反対尋問等で内容の真実性が担保されないから、事実認定を誤らせるおそれがあるために、320条により証拠能力が否定される。すなわち、「証拠とすることができない書面」は、公判外供述を内容としその内容の真実性が問題となる書面をいう。

 証拠1、証拠2、証拠4はいずれも甲または乙の公判期日外供述であり、丁の事件についての関与を内容とする点で、内容の真実性が問題となる書面である。

 したがって、証拠1、証拠2、証拠4は「証拠とすることができない書面」である。

(3)次に、Sは証明力を争うために取調べ請求をしたとあるが、「証明力を争うため」といえるか、何らの限定もなく取調べ請求が認められるのか問題となる。

 328条は伝聞証拠であっても、証拠とすることを許容するから、証明力を争う証拠として伝聞法則を潜脱する危険がある。伝聞法則を潜脱した場合、反対尋問等により内容の真実性を担保されていない証拠によって事実認定が行われ誤判のおそれがある点が問題となる。

ここで、証明力を争う証拠として自己矛盾供述を証拠とする場合には、その証拠の内容に関わらずそのような矛盾する供述の存在自体により証人の供述の証明力を争うことができるから、上記の問題が発生しないといえる。したがって「証明力を争うため」に用いられる証拠は、自己矛盾供述に限られると解する。

本件の争点は、丁が事件への関与した事実の有無である。甲証言は、甲が丁から覚せい剤の密売を持ちかけられたこと及び乙丙は丁から報酬を受け取っていたことを内容とするから、丁の関与があった旨の事実を立証するための証拠である。証拠1は甲が「丁は私の知り合いだが、覚せい剤密売に関与していない」と証言するもので、丁の関与を否定するから甲の自己矛盾供述である。証拠2は、甲が覚せい剤の密売を持ちかけ、報酬を送金したのは丁ではないという内容であり甲証言と矛盾するから自己矛盾供述である。証拠4は乙の供述であって甲の証言と異なるから自己矛盾供述ではない。

以上から証拠1、証拠2のみ「証明力を争うため」の証拠である。

(4)証拠1、証拠2のみ証拠調べ請求が認められる。

 

1小問2

(1)「証明力を争うため」に、証明力を回復する証拠は含まれるか。

(2)上記のとおり、供述内容の真実性に関わらずその供述の存在のみで証明力を争うことができる場合のみをいう。減殺された証明力を回復するための証拠は、その証拠の内容が当該証言と一致しているという事実のみで証明力を争うことができるから、「証明力を争うため」の証拠に含まれる。

(3)証拠3は甲が被疑事実について丁の指示で、平成27年8月ごろに丙と覚せい剤100gを販売しその報酬を丁から受け取ったこと、その動機が詳細に供述されている。これは、甲証言の内容と一致するものであるところ、各証拠により減殺された甲証言の証明力を回復するものである。

(4)したがって、裁判所は証拠3の取調べ決定をすることができる。